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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)298号 判決

第一相互銀行

事実

原告株式会社第一相互銀行は、被告日本ハイドロプレス株式会社が被告小笠原洋一に宛て振り出した額面九十万円の約束手形を、右小笠原より白地裏書を受けた被告増川泰より裏書によつて取得したので、原告は満期日に右手形の所持人として支払場所に呈示して支払を求めたが、右手形は変造手形であるとの理由で不渡り返却された。よつて原告は被告らに対し右約束手形金九十万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めると述べ、被告の抗弁に対しては、仮りに本件約束手形の支払期日の記載が変更されたものとしても、被告日本ハイドロプレス株式会社より手形による金融操作面について、代理権を与えられていた訴外川又録多がその代理権に基いて変更したものであり、更に被告会社の代理人である訴外工藤祐次郎が、一且支払期日が到来して流通を終つた本件手形の支払期日が右のように変更されたものを再び流通の状態においたのであるから、右約束手形はもとより有効なものであると主張した。

これに対し、被告日本ハイドロプレス株式会社は、本件約束手形の支払期日は変造にかかるもので、被告会社はこのような約束手形を振り出したことはないと述べ、被告小笠原洋一は本件手形を右被告会社から受け取つたこともなくまた被告増川泰に裏書したこともないとして争つた。

理由

証拠を綜合すると次のような事実を認めることができる。

すなわち、訴外工藤祐次郎は昭和二十八年頃から被告日本ハイドロプレス株式会社(以下単に被告会社と略称)の懇請を受け被告会社企画部長という肩書を賦与されて被告会社の資金調達等の仕事をしており、訴外川又録多もまた被告会社の金融の幹旋の仕事をしていたのであるが、一方被告増川泰は被告会社より依頼を受けて原告株式会社第一相互銀行に対し被告会社に対する融資方の申入をなし、当初右川又より被告会社振出被告増川宛の額面二百五十万円の約束手形を受け取り、これに自己が裏書をして手形割引の方法により金二百万円を原告から借り受け、これを右川又に交付した。その後右約束手形は支払期日が到来する毎に一部弁済して残額につき額面百五十万円ないし額面百万円及び四十五万円等の同様形式の約束手形によつて順次書き換えられ、その都度旧手形は原告から回収された。右書換手形は最初の二、三回は右川又が被告増川のもとに持参し、その後は工藤が同被告のもとに持参するのを常例とした。

ところで被告小笠原は、昭和二十九年六月頃被告会社の代理人である工藤に対し右川又の紹介で金九十万円の貸付をなし、当時その支払方法として被告会社振出額面九十万円支払期日一ヵ月後の被告小笠原宛の約束手形をとつたが、その書換手形として、右川又は同被告のもとに被告会社振出の本件手形を持参し旧手形と差し換えた(但し、当時は手形記載要件のうち支払期日は昭和二十九年八月二十日と記載されていた。)。

そして右手形はその支払期日当時更に書き換えられ、同被告はこれを川又もしくは工藤に返還した。

工藤は、被告増川から先に原告に差し入れてあつた約束手形の支払期日の切迫した昭和二十九年八月下旬にいたり、これが書換手形の差換方を督促されたので、前記のように一且被告小笠原に差し入れ書換によつて返還を受けた本件手形の支払期日の記載を、川又が工藤の事務所で昭和二十九年九月一日と書き改め、且つ第一裏書欄にかねてからもつていた被告小笠原名義の印鑑を用いて同被告名義の署名を作成し、その事情を承知の上で被告増川のもとに持参し、被告増川は直ちにこれに裏書の上前記のようにこれを原告に対し書換手形として差し入れ旧手形を回収した。このとき原告は、被告増川が従前同様工藤と同道して本件約束手形を持参して来たので別に怪しむことなく、右のような事情を知らないままこれを取得した。

以上のような事実を認めることができるのであつて、これらの認定事実のもとにおいては、被告会社の代理人である工藤が、書換によつて一且回収された本件約束手形をその支払期日の変更されたことを容認の上再び流通においたのであるから、被告会社としては、もとよりその所持人である原告に対し本件約束手形の振出人としての右手形上の義務を負うものと解するのが相当である。

次に、被告小笠原名義の裏書人署名は前記のように川又が作成したもので、同人にかかる署名を作成すべき権限があつたことを認める資料はないから、同被告は本件約束手形につき手形上の責任を負うべきいわれはない。しかしながら、被告増川は右のように被告小笠原の偽造の署名がなされた後の署名者であるから、勿論裏書人として右手形上の責任を免れるものではない。

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